大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)3212号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人河辺久雄、同上代琢禅の上告趣意第一点について、

公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは公判調書のみによって証明せらるべきであって反証を許さないというのが刑訴五二条の趣旨とするところである(昭和二五年(あ)第二〇六〇号、同二七年三月二五日第三小法廷判決参照)。このことは、公判調書中のかような手続に関する或る記載を訴訟記録等の資料によって明白な誤記と認めることを許さない趣旨ではなく、かかる誤記と認めることは公判調書の記載の正確性についての異議申立の有無に拘わらず許されるものと解すべきである。けれども、第一審公判期日に検察官が或る供述調書を「刑訴三二八条の証拠として」取調を請求したので裁判所がその決定・取調をしたことの公判調書の記載がある場合は、右検察官の取調請求の趣旨が如何なるものであったかは、刑訴五二条の本旨に照らし、専ら右公判調書の記載のみによって証明せらるべく、すなわち右の場合は「刑訴三二八条の証拠として」取調請求があったものと見る他ないのであって反証は許されないこというまでもない。この場合に控訴審裁判所が自ら取り調べた証人の供述によって右公判調書中の取調請求の趣旨としての「刑訴三二八条の証拠として」とある記載を「刑訴三二二条の証拠として」の誤記であると認めるがごときは違法であるとのそしりを免れない。

記録を調べて見ると、所論のとおり、第一審判決はその認定した罪となるべき事実の証拠として、被告人の同法廷における金銭授受の趣旨を除く判示同旨の供述の外、(A)検察官に対する早崎茂夫第三回供述調書謄本、検察官事務取扱検察事務官に対する望月久吉外三名供述調書の各記載と(B)検察官に対する被告人第一回ないし第三回供述調書、司法警察員に対する被告人第一回及び第三、四回供述調書の各記載とを挙げているが、第一審第九回公判調書(その一部を成す証拠関係カードを含む)には右(A)の供述調書謄本並びに各供述調書は検察官から「証人の証言の証明力を争うため刑訴三二一条の証拠として」又、右(B)の被告人の供述調書(但し検察官に対する第二回供述調書を除く)は「刑訴三二八条の証拠として」それぞれ取調請求があったのでその決定、取調があったものである旨の記載があること、並びに、右公判調書の記載の正確性についての異議は第一審最終公判期日を過ぎても全然申立てられていないこといずれも記録上明白である。

そして、原審では、弁護人が控訴趣意において、第一審判決が証拠に採用した右(A)(B)の各供述調書は検察官から刑訴三二八条に基き証拠の証明力を争うために提出されたものであるから、これを犯罪事実認定の証拠に採用したのは違法であると主張したので、原審裁判所は右第一審公判調書の記載の正確性について第一審公判立会の副検事百瀬幸人、第一審公判調書作成裁判所書記官補渡辺敏春を証人として取り調べた上、判決理由において、右両証人の証言によると右調書に右(A)の各供述調書について「証人の証言の証明力を争うため刑訴三二一条の証拠として」とあるのは単に「刑訴三二一条の証拠として」の誤記であり、又右(B)の各供述調書について「刑訴三二八条の証拠として」とあるのは「刑訴三二二条の証拠として」の誤記であることが認められると説示して右弁護人の主張を排斥したことも記録上明らかである。

按ずるに、先ず右(A)の検察官に対する早崎の供述調書はいずれもその形式内容に照らし刑訴三二一条に該当する書面であることは原判決末段にもいうように論を俟たないから、冒頭説示の理由により所論第一審公判調書の記載の正確性についての異議申立の有無に拘わらず右公判調書におけるこれら(A)の調書類の取調請求の趣旨としての「証人の証言の証明力を争うため刑訴三二一条の証拠として」とある記載は原判決説示のとおり単に「刑訴三二一条の証拠として」の誤記であると認めるのを相当とし、かく認めることは刑訴五二条の本旨に触れるものではない。けれども、次に、同調書中の右(B)の被告人の各供述調書についての「刑訴三二八条の証拠として」とある記載を「刑訴三二二条の証拠として」の誤記と認められる資料は本件記録上にもないからこれは刑訴五二条の本旨に従い公判調書の記載通りの趣旨において証拠調の請求があったものと見る外ないのであり、従って原判決がこれを誤記と認めた点は同法条の本旨に反し違法であるとのそしりを免れない。しかし右(B)の被告人の各供述調書を除いても第一審判決挙示の被告人供述の一部と右(A)早崎外三名の供述調書とを綜合すれば第一審判決の判示事実を認めるに足りるから、この認定を肯認して控訴棄却を言渡した原判決は結局正当であって、原判決の右法令違反はこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとはいい難い。なお論旨引用の判例は本件に適切でない。所論は理由がない。

同第二点について。

所論は単なる量刑不当の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例